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寂聴さんのエッセイ

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 朝日に載る寂聴さんの連載エッセイ『遺された日々』を時々読んでいる。その時や折をすぱつと切る、その切れ味だけを楽しみにしているようなものだが、いつもいつも切れ味がいいとは言えないようだ。

 この和尚、かつて瀬戸内晴美という小説家だった。何とも恋と愛欲にまみれた小説世界でのたうっている作家と、若い私など到底垣間見ることも出来ない、理解の外の作家に思えていたものだ。と言っても、好んでこの人の作品を読んだ記憶は無い。

その晴美という女性が今東光ら先輩坊主作家の勧めでか突然坊主になった。ずいぶん生臭坊主になるのだろうと思っていたが、東北のさる荒れ寺の和尚となり、たちまち若い女性から歳経たご婦人の関心の的となって、源氏物語の現代語訳を完成させ、多くのエッセイや小説を書いてきた。ま、今さら私がこの人の人となりを書いても何も目新しいことなど在ろう筈もないが。


 八月十三日の朝日に載った連載エッセイは、敗戦記念日を二日後に控えてのものだったが、コロナ禍で「芝居も角力も・・・自由に観たり聞いたりしてはならない」と書いている。「してはならない」とは、つまりそうした規制があるということだ。ここから、「戦争を経験して生き残った私たち世代の人間は、戦争中の不自由さをありありと思い出す」と筆を進めた。

 ワタシ世代ですら何者かの陰謀でもありはしないかの疑義もあって、この三密にはある種の嫌悪を感じるが、戦争の時代を生きた人ならもっと不自由を感じるのは頷ける。

「戦争中とはまた違った不気味さが、身の回りをひしひしと包み込んでくる」という言いようはよくわかる。

「生きて行くということは、苦の川や谷を、どうしても渡らなければならない」ことだと、いかにも僧侶らしい感想も述べられている。

「・・・自分の過去を廻想する時、犯してきた人道の間違いも罪の罰も、すべて老いの一身に受け止めて、いさぎよくあの世の地獄へ堕ちようと思い定めてきた」とは、この人の覚悟だろう。

 ワタシも近頃頓にそう考えることが多い。どう足掻いたとてワタシの死後は地獄でしかあり得ないと思っている。寂聴和尚にして地獄というなら、ワタシなど他に行くべき来世などあるわけもない。

振り返ってみるに、自分のしでかした行いや人に浴びせてしまった言葉といったものが現在ただいまのワタシ自身に襲い掛かって来る。思うに、地獄とは既に生きてある生身の今のこと、眼前にあるものではないのか。地獄の閻魔さんが自分自身であってみれば、これはどうにも誤魔化しようがない裁判ではないか。

 五十一歳で出家した寂聴さん、それとほぼ同じ年月を僧侶作家として生きてもうすぐ百歳を迎える。「人間は、生かされるのも殺されるのも、自分の力ではないようだ」と結んでいるが、仏教者としてなら、当然「仏様」に「生かされ」ていると観念するのだろうが、そうか「殺される」もか。 20200817


Commented by ままねこ at 2020-08-18 10:18 x
かんとさん、難しい話をなさるのですね
寂聴さんの、月2回のエッセイ楽しみに読んでいます
100歳を目の前にして、仏様に近づかれたかなとほほえましくさえあります
週刊朝日には、横尾忠則との往復書簡「老親友のナイショ文」が連載されていて、これも次号が
待たれます
瀬戸内源氏はギブアップでしたが田辺聖子源氏はクリア出来ましたよ。
Commented by yamamomo1013 at 2020-08-18 16:53 x
寂聴さんといえばその昔 東京フォーラムに講話を聴きに言った覚えがありますが
広い会場満席で人気の高さを目の当たりにしました

今もって人気は衰えないようですがお坊さんのイメージより若い女性秘書の方をそばに置き
Tシャツスタイルでお肉とワインを嗜められる寂聴さんのほうが印象に残っています

もうじき百歳になられるのですか
新聞に連載を書かれていらっしゃるというそのバイタリテイーはどこからくるのでしょうか
やはり並のお坊さんではありませんね



Commented by exarakant at 2020-08-18 19:25
>ままねこさん

難しい話ですか
8割り方寂聴さんの言葉を引用しておりましてねぇ
それがむずすしぃとなれば寂聴さんの話が難しいということになってしまいます(^^;
ボクが付け足したのは、寂聴さんにして地獄へ落ちるとかくごしているとすれば
ワタシなど間違いなく地獄落ちだということ
しかもその地獄も目下ただいま事ごとに眼前にあり
しかもそれをさばく閻魔さえも私自身だから
こんな恐ろしい地獄もあるまいということです
これが難しい?

寂聴和尚はいまや天台宗の大幹部ですよ(^^♪
Commented by exarakant at 2020-08-18 19:39
>Yamamomoさん

寂聴和尚のバイタリティーの元と言ったらこれはもう肉を食べて般若湯をたしなむこれですよね
この和尚の語録などたいてい人気があるようですが昔の坊主のような持って回ったところはなく
ずばりと思ったことを口にするってことですね
ほんとうのところ面倒ものでエッセンスのようなものしか目を通していませんが
どなたも顏をほころばせ元気になれればこれにて一巻なり申したってことでしょうめでたしです

この和尚は五月生まれだそうですから再来年の五月に満百歳を迎えるようです
Commented by 親父の休日 パートⅡ at 2020-08-19 09:50 x
瀬戸内さんの本は読んだことがありませんが、もうすぐ100歳を迎えられるのですね。
宗教の世界では人は生かされていると言われますね。
まだそんな心境にはなれませんが、私ももうそこそこの歳です。
でも悟りには程遠いです。

Commented by exarakant at 2020-08-21 06:25
>親父さん

孫悟空同様、釈迦の手の平の上でだけ勝手をさせてもらっていると知れば「生かされている」となるのでしょうね。
キリスト教もイスラム教も原理は似たようなものかもしれませんね。
寂聴さんのような気さくな坊主に「いいよ、大丈夫だよ」と言ってもらえば釈迦に見捨てられていないと安心するのでしょうか(^^♪
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by exarakant | 2020-08-18 11:01 | 椚亭日乗 | Comments(6)

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